<保護者向け>子育てのヒント 新しい生活スタイルが求められる今、 コロナ禍での子どもとの向き合い方
新型コロナウイルス感染拡大により、学校や学童での例年のイベントができなくなったり、友達との接触を制限されたり、今まで当たり前だったことができない日々が続いています。コロナ禍で新しい生活スタイルが求められるなか、親が大切にしたいこととは? 小学校教師として長年、児童や保護者と向き合ってきた、東京学芸大学 教育学部 健康・スポーツ科学講座教授の鈴木聡先生に聞きました
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3月からの長期休校を経て、子どもたちの変化や、現在の学校現場の様子を教えてください。
ウイルスの感染予防対策は欠かせませんが、「運動も大事」ということが再認識されています。3カ月間の休校によって体力が落ちることは想定していましたが、体育の時間にケガをする人数が、6月末から7月にかけて前年比で増えたというデータがあるそうです。例えば跳び箱の場合、「3年生のときに跳べたから、4年生の自分は当然跳べる」と思ってチャレンジして、失敗してケガをするそう。もちろん準備運動はしっかりやった上で。
約3カ月の休校期間中に子どもたちの運動時間が大きく減っただけでなく、日常生活で体を動かす機会も減りました。ランドセルを背負って登下校し、階段を上り下りし、休み時間に友達と遊ぶことでかなりの運動量があり、こうしたことでも体力をつけていたのです。自分の体力が落ちていることに子どもたち自身が気付いていないため、ケガが増えているのかもしれません。
そこで学校現場では、ソーシャルディスタンスを保ちながらマスクを外して運動をしたり、給水のときは必ず手を消毒したりするなど、感染予防をしながら体育の授業をできるだけ普通にする努力をしています。運動会などで「この学年はこの競技」と定番で行っていたものができなくなったことで、「3密に気を付けながら何ができるか」と、先生も子どもも主体的に工夫する機会が増えたようです。
子どもたちは、外で常に「密にならないで」と言われる状況です。家ではどのようなことに気をつければいいでしょうか?
子どもたちが「ぎゅーっ」と集まっていると、なんとなく仲良くうまくいっているように見える感覚が大人にはあるので、子ども同士の触れ合いが少ない状況が続くことに親御さんは不安を抱くかもしれませんね。でも、人と密になることがしんどい子もいて「やりたくないのに無理やりハイタッチさせられた」と感じるような子にとっては、いい意味での「ソーシャルディスタンス」なんです。実は人間の距離のとり方として、これくらいがちょうどよいのでは、と感じる場面もあるので、あまり心配しすぎる必要はありません。
外で友達との接触を制限されることにストレスを感じるようなら、親子で「密着」してみませんか。他人同士だとできないことも、家族なら大丈夫です。おうちで寝転がって一緒にゴロゴロ回転したり、手をつないで立ったり座ったりするなどの体あそびは、自然にスキンシップができるのでおすすめです。体あそびはスポーツの基礎的な動きにもつながっていて、それを身に付けるのは小学校の今の時期が一番のチャンス。そんな体あそびで培われた「しなやかな体」は、生きていくためにとても大事なんですよ。
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子どもの様子が「ちょっと変だな」と思ったとき、どう接すればいいですか?
例えば子どもが転んで泣きそうなとき「痛くない、痛くない」と、我慢して泣かせないような対処法を続けると、感情の出し方がわからなくなると言われています。コロナ禍のさまざまな変化の中で、子どもの様子がいつもと違うと感じたら、「どうしたの?」「何かあった?」とさりげなく聞いて、つらいときは我慢せず「嫌だ」「しんどい」と素直な感情を出せるようにしっかり耳を傾けたいですね。
そのためにも普段から、つらそうなときに「そうか、つらかったんだね」と共感し、おもしろい出来事を一緒に笑い合えるような関係性が大切。手を繋いだり、抱きしめたりスキンシップをしながら子どもをかわいがることは、コロナ禍でなくても基本となる親の関わり方です。また、親がギスギスしすぎると子どもにも伝染するので、外の変化に対してあまり過剰に心配しすぎないほうがいいですね。そして、我慢しすぎず素直な自分を表現することは、大人にとっても大事なことだと思います。
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コロナ禍でさまざまな判断が親に任され、一つひとつが試されている感じがします。新しい生活スタイルの中で大事にしたい視点とは?
みんなが「同じ価値観で正解を求める」という時代ではなくなっています。新しい問題に直面したときに、それを解決するための「考える力」が問われていることは以前から言われていました。それがコロナ禍で一気に現実となったのです。
学校現場で、さまざまな視点から工夫して「子どものためにできることをやってみよう。しかもやり始めたら楽しい」と思って進んでいく先生方がいて感心しました。家庭でも、できないことを嘆くのではなく「子どものために何がいちばんいいか、何ができるか」と考える視点はとても大切ですね。正解がわからない状況のとき、保護者同士で話したり、先生に相談したりしながら、いろいろな情報を集めることも判断する参考になります。
どの親御さんもそれぞれの家庭でできることを、精いっぱい努力されていると思います。そんな工夫している大人の背中を、子どもはちゃんと見ています。子どもたちにとって「大変なコロナの状況下で、大人が一生懸命に考え工夫してがんばっている」という姿を見る経験は、いずれ大人になってからの行動のモデルになると思います。今、まさに親も子も課題解決力を養いながら、前に向かって進み続けているところなんですよ。
(構成・文 米原晶子)
思わず笑顔がこぼれる、親子でできる「体あそび」を紹介します。
→【たのしーと壁新聞】2020年 秋号 (「おもしろ体あそび」で親子のスキンシップ!)
※次回は21年春ごろに更新予定です

回答者プロフィール鈴木 聡 (すずき・さとし)
東京学芸大学 教育学部 健康・スポーツ科学講座 博士(教育学)教授。都内公立小学校、東京学芸大学附属世田谷小学校の教諭を経て、2012年より現職。専門は体育科教育学、教育心理学など。令和元年~3年度「スポーツ庁小学校体育(運動領域)指導の手引」作成委員。各地の小学校の研究発表会の講師なども務める。主な共著に『コアカリキュラムで学ぶ 教育心理学』(培風館)、『小学校体育はじめの一歩 主体的・対話的で深い学びを考える』(光文書院)など。