たのしーと制作者インタビュー「遊びながら学ぼう!」 第9回  東京学芸大学附属世田谷小学校 教諭 木村翔太さん

2021.03.17

東京学芸大学スペシャル「キナガザルのポレポレ」の制作を担当した東京学芸大学附属世田谷小学校 教諭の木村翔太さんに、制作に込めた思いを伺いました。                               


写真提供:木村 翔太さん

「キナガザルのポレポレ」のコンセプトと、制作のねらいを教えてください。

「キナガザルのポレポレ」は、「じゃんけんのはてな?」「気持ちのはてな?」など、毎回「はてな?」というタイトルで子どもたちに「疑問」を投げかけます。今、世の中にある「当たり前」は、以前どこかの誰かが見つけた疑問に対する解答例に過ぎず、自ら疑問を持ち、考え、自分なりの解答にたどり着くことのおもしろさに「学びの本質」があります。

例えば「ボール投げ」。ボールの投げ方を「覚える」のではなく、「ボールを投げるために、どう体を動かせばいいの?」という問いを自分なりに考え、試行錯誤することが学びにつながるのです。「学び」に効率的なスピードを求める現代の社会が「はてな?」を感じさせず、最初から「知る」ことや「覚える」ことを強制し、学ぶ行為を「勉強」という義務感をまとった言葉へと変化させてしまっているのではないでしょうか。

「ポレポレ」は、スワヒリ語で「のんびり」という意味です。急がずにゆっくり「はてな?」について自分なりに考えていく、本当の意味での「学び」を実現できるワークシートにしたいという思いを込めました。


キナガザルのポレポレ:「じゃんけんのはてな?」

キナガザルくん、チュータが主な登場人物です。それぞれのキャラクターの特徴は?

主人公のキナガザルは、気は優しいけれど少しだらしのないのんびり屋。ねずみのチュータは、将来学校の先生を目指すしっかり者です。チュータの方が常識をわきまえていて、「当たり前を知っている」のですが、自分の気持ちに素直なキナガザルの方が、ときに核心をつく疑問を投げかけます。普段はキナガザルに教わることの多いチュータも、キナガザルの何げない一言にはっとさせられます。大人と子どもの関係と似ていますね。

実はこの2人の要素は、どちらも私の中にも存在しています。日頃から天使と悪魔のように「あ〜、仕事行くのめんどくさいな〜。休んじゃおうかな〜」「いやいや、やっぱりちゃんと行かなきゃダメだよ」という会話を頭の中でしています(笑)。「ポレポレ」を制作する中で編集スタッフから、「チュータは木村先生がモデルですね」と言われたときは、「自分はきちんと社会生活が送れているようだぞ」とほくそ笑みました。

毎回のテーマ選びで気をつけたことは何でしょうか?

ポイントは2つあります。ひとつは、子どもたちが疑問を持ち得るような「身近なこと」をテーマに選ぶこと。例えば、「地球温暖化」は大事な問題ですが、子どもにとって日々感じる身近な問いではないように思います。子どもが日常にあるのにスルーしていたり、「聞かれれば、確かにわからない!」と共感できたりする、「等身大のはてな?」に注目しました。

もうひとつは、子どもたちが「自分で確かめられる」テーマにすること。例えば、「星はどうして光っているの?」は、身近で素敵な問いです。教師がいれば教材を用いたり、一緒に観察したり何らかのやり方があるのでしょうが、低学年の子どもだけでは、本で調べるしか確かめようがありません。学童の場で、限られた時間でも取り組めるようなテーマ選びを心がけました。

できる限り配慮はしたつもりですが、ワークシートという性格上、一人ひとりの子どもに合わせた説明はできません。言葉の意味や説明が難しい場合は、子どもの問いかけに周囲の大人がわかりやすいようサポートしていただきたいと思います。


「キナガザルのポレポレ」のコンセプトはコチラ

文字は木村先生の「手書き」というのが特徴です。手書きにこだわった思いとは?

手書きの文字で「温かさを伝えたい」というのが一番の思いです。印刷された文字は多くの人が読みやすく、制作のスピードも上がります。手書き文字は手間がかかりますが、書き手の感情や、言葉のニュアンスや強弱を伝えることに優れているように感じます。私が描くイラストともマッチして、ページ全体の構成もしっくりきます。

手書きの文字に触れる機会はどんどん少なくなっていて、印刷された文字が「当たり前」だからこそ、「手書きだとどんなふうになるだろう?」という実験的な気持ちもありました。「キナガザルのポレポレ」に取り組んだみなさんはどう感じましたか?

「ポレポレ」を学童の現場でどのように使ってほしいですか? 

キナガザルやチュータが、何げない日常の中で「疑問」を見つけていくまでのやり取りや、キナガザルの大げさなリアクションのイラストなどを楽しんでください。キナガザルの「はてな?」に、「それ、思ったことある!」「確かに、何でだろう〜?」と共感してもらえるとうれしいです。

子どもたちの成長を見守る大人は、少し離れたところから子どもの様子を観察するスタンスになりがちです。そのスタンスも大切ですが、子どもたちの活動に夢中になって参加したり、ときには一緒にのめり込んだりしてほしい。「キナガザルのポレポレ」の「はてな?」は、大人にとっても「よく考えたら難しい」と思えるものです。「そんなの当たり前!」という思い込みを捨て、子どもたちと一緒に取り組んでみてください。

「キナガザルのポレポレ」はコチラ

(文・構成 米原晶子)


プロフィール 木村翔太(きむら・しょうた)

東京学芸大学附属世田谷小学校 教諭
東京学芸大学大学院 教育学研究科・体育科教育コース修了。専門は「遊び学」。東京学芸大こども未来研究所学術フェローを兼務。「正しさより面白さ」を教育の現場で実践する。自治体主催の放課後子ども教室や放課後支援員向け講座などの講師も務める。

写真提供:木村翔太さん/生徒と一緒に紙粘土で作った「キムチ(木村先生の愛称)ロボ」