支援員のお悩み相談室 第49回 いつもおやつをほかの子よりも欲しがる子どもがいて、家庭の貧困が疑われます。 どのような対処をすればいいのでしょうか。

回答者:田嶌 大樹

2023.10.19
家であまりご飯を食べていないのか、いつも多くお菓子を欲しがり、ほかの子が残したおやつも食べたがる子がいます。家庭の貧困が疑われるのですが、支援員としてその子に何か特別なことをしなくてはいけないでしょうか。シングル家庭やネグレクトなど配慮が必要な子への対応も知りたいです。

子どもにとって、「いろいろな話を聞いてくれる人・場所」があること自体に価値があります。

子どもの様子から、背景の事情にも思いを巡らす

過剰に食べ物を求める子どもの行動は、その子の生活状況や家庭環境の問題を示唆している可能性があります。まずはその子の様子を継続的に観察し、変わった点や特徴的な行動がないか注意することが必要です。また、もしその子と信頼関係があり、話を聞けるようであれば、家庭での食事や生活の状況について聞いてみましょう。子どもの事情をよく理解することが、まずは大切になります。

学校現場では、子どもの困りごとに先生が気づくサインとして、「服があまり変わらない」「忘れ物が多い」「体臭がする」「給食を大量に食べる」「不自然な傷がある」などがあると言われています。こうしたサインから「貧困」や「虐待」などが発見される可能性もあります。これらのサインに気づくことは、子どもがどういう状況にあるかを理解し、関わり方を意識していくきっかけになります。子どもの困りごとは複合的に絡み合っていることも多いので、貧困だけに注目するのではなく、「子どもが本当に困っていることは何か」に目を向けてみましょう。

ある子どもが「人の話を聞いていない」「忘れ物ばかりしている」といった状態のとき、大人はつい「ちゃんとしなさい」と注意や指導をしてしまいがちです。しかし、その子はヤングケアラーで、家に帰ったら小さいきょうだいの面倒をみて疲れきっているのかもしれません。そういう背景を知っていれば、目の前にいる子どもの見え方や関わり方も変わってくるはずです。問題行動と思えることに対して、「実は背景に事情があるのではないか」と思いを巡らせることは、支援員にとって大事な心構えです。そうした事情を子どもから教えてもらえるような関係性を築いておくことも重要です。

「何でも相談できる」「SOSを出せる」環境に

保護者との信頼関係も大切です。保護者が抱えている困りごとに、学童の支援員が関わっていくのは難しい面もありますが、送り迎えのときや保護者会、連絡帳のやりとりで情報を交換しつつ、「何でも連絡くださいね」というメッセージを伝えます。家庭の問題は、保護者が孤立することで問題が深刻になります。そうならないように、普段から保護者ともコミュニケーションを取りやすい状況にしておくのです。

学童だけで対処しきれないときは、早めに小学校の先生やスクールソーシャルワーカーなどに相談することも有効です。連携しながら対応することで状況が改善されることもあります。子どもや保護者の状況から深刻な困りごとだと判断した場合は、児童(子ども)家庭支援センターや児童相談所など他の支援機関につないでいくことも検討しましょう。

見えにくい?子どもの貧困

相談者も気にされている、「子どもの貧困」。現代の子どもの貧困は「見えづらい」とよく言われます。それは、私たちの貧困に対するイメージに由来しているかもしれません。貧困について考えるときに、貧困を説明する2つの概念が手がかりになります。ひとつは「絶対的貧困」。「明日食べるものに困っている」という飢餓の状態で、干ばつや紛争などの影響がある発展途上国に集中しています。

もうひとつが「相対的貧困」。その国の生活水準と比較して困窮した状態を指します。最低限の衣食住は満たされているものの、いろいろな経験の機会や人との交流の機会がほかの子どもと比べて少なく、成長や発達上の不利につながることが日本でも問題視されています。「貧困」と聞くと「絶対的貧困」をイメージしてしまい、学童の現場で「何ができるのか」と悩んでしまうかもしれませんが、学童で行われる多様な人との交流や遊び・体験活動が、「相対的貧困」を抱える子どもたちにとって貴重な機会を提供しているという側面が大いにあります。

日本における子どもの貧困率は約9人に1人、ひとり親世帯だと約2人に1人と言われています(厚生労働省「2022年 国民生活基礎調査」より)。これは、決して少なくない数字です。しかし公設学童の場合、利用登録の申請窓口は行政なので、子どもの家庭環境や生活状況に関する情報はよほどのことがない限り共有されないのが現状です。相談者のように、子どもや家庭とのコミュニケーションのなかでキャッチしていくしかありませんが、逆に言えば、支援員は身近な存在として寄り添えるからこそ、子どもや家庭の困りごとにいち早く気づき、支援の手を差し伸べてあげられる存在でもあります。

子どもが学童に来ているのは、「誰かとつながっている=ひとりではない」ということ。悩みを抱えている子どもにとって、いろいろな話を聞いてくれる人がいること自体、非常に価値があります。支援員が見守り「何でも相談できる」「何かあったときに、SOSを出せる」環境をつくることが、問題を未然に防いだり、問題が起きても深刻化させたりしないという、ある種のセーフティネットの役割を担っているのです。


(文・構成 米原晶子)

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田嶌 大樹

回答者プロフィール田嶌 大樹 (たじま・ひろき)

東京学芸大学 児童・生徒支援連携コンソーシアム特命助教
専門は「あそび」を核にしたスポーツ・教育実践研究。現在は、放課後児童クラブにおける遊びの研究、企業や地域の大人と大学生・子どもを巻き込んだ学校外教育フィールドの開発、運動遊びを通じて子どもの能力を高めるプログラムの開発などに取り組む。学校教員研修や放課後児童クラブ支援員向け講座などの講師も務め、その活動は多岐にわたる。
著書『子どもの貧困とチームアプローチ “見えない” “見えにくい”を乗り越えるために』(共著・松田恵示監修/書肆クラルテ)では、大学生が社会課題の解決を目指して教育実践をしながら学ぶ「サービスラーニング」について論じている。

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